軌道エレベーターの安全性について

投稿日 2023.06.02 更新日 2023.06.02
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軌道エレベーターは全人類に多大な恩恵をもたらすものになるだろう。単に低コストで気軽に宇宙へ行ける交通インフラとしてのみでなく、半導体や医薬品、素材分野での飛躍的な進歩も期待できる。その一方で、この手の超巨大構造物の建設は史上初の試みとなる。不安も多い⋯軌道エレベーターは本当に安全なのか?万が一、事故が発生した場合、どの程度の被害を及ぼすのか?現状において、人により様々な見解が出されているが⋯言われている程に危険なものにはならないだろう。まず、ガンダム00で描かれていたような事故シーンは絶対に起きえないだろう。細長い筒状の鉄筋コンクリート製の長大な塔のようなものを思わせ、それがバラバラに分解して外壁パネルのようなものが無数落下して来る大変恐ろしいシーンであったが⋯それはないだろう。

軌道エレベーターの構造材は炭素系の軽い素材である。軌道エレベーター全体を支える材料として、地上部の土台を除き、鉄筋やコンクリートは一切使われない。軌道エレベーターの全長にもよるが⋯カーボンナノチューブ製のロープで数メートル程度の太さにまとめられたケーブル状の構造物に過ぎない。それに軌条を這わせ、ゴンドラのような乗り物を行き来させるだけとなる。基本、宇宙空間に露出したもので、筒状の構造体となることはないようだ。事故が発生してもバラバラに分解せず、軌道エレベーターの大半部分は遠心力によりそのまま宇宙空間へ放出されるだろう(そのように事前設計すると思う)。全体が横倒しになるような感じで倒れて来る訳でない。もちろん、地上に落下して来るものもあるだろうが、それは軌道エレベーターを支える土台付近に限られる。

軌道エレベーターは基本的に赤道上に建てられる。日本などの高緯度地域でも立てられないことはないが、やはり、赤道上に建てるのが合理的となる。遠心力を最大限に有効活用できる。赤道直下の人口の少ない小さな島にでも、軌道エレベーターの土台を建てれば良いだろう。太平洋上ならそのような条件に合致した陸地はいくつも見つかるはずだ。万が一、崩壊事故が発生しても、落下して来るのは軽い炭素系の素材である。多分、ほずれた状態で落下して来るだろうから、ある程度の空気抵抗を受けながらのものとなるので、落下時の衝撃はそれほどでもないだろう。ケーブルに這わせていた軌条や電力線は金属製となるが、全部が全部、落下して来る訳でもない。土台そのものもそれを見越し、避難シェルターを兼ねた丈夫な作りをしたものになるだろう。

次に、事故発生時、軌道エレベーターにいた人たちの避難方法となるが⋯上述した通り、万が一、崩壊の危機に直面しても、全体がいきなり壊れるような設計にしないだろう。まずは一旦、軌道エレベーターごと宇宙空間へそのまま行ってもらい、軌道エレベーターの中核施設となるステーションに全員集まり、そこから脱出用のシャトルに乗って地球へ帰還してもらう形になると思う。船舶に備え付けられている救命ボートのような緊急脱出設備は当然設置されるだろう。ただし、未来の技術なんか本当にどうなるかわからない。現代人の考えなんか及ばないようなものが開発されているかもしれない。事故による被害を最小限に抑える仕組みになるはずだ。長大なケーブルの途中で移動困難となったゴンドラも、そのまま脱出用のシャトルに早変わりさせるだろう。

軌道エレベーターのケーブル自体に余計なものは取り付けられないだろう。移動ゴンドラとその軌条、通信線、電力線以外に必要となりそうなものはない。テロ攻撃などによるものも含め、崩壊事故が発生してもたくさんの部品が雨あられの如く落下して来ることは決してない。軌道エレベーター全体が横出しになり、地球上に甚大な被害をもたらす様子をイメージする人が多いと思うが、そのようなことも起きえないだろう。もちろん、崩壊した部分から残りの下部分は重力に従いそのまま落下して来ることになるが、地球に対しては直立不動の姿勢で立っていたものだ。そのまま土台付近の真下に落ちて来るだけだろう。ロープが不意に外れたり、ロープに加わる張力がゼロになったら、空気抵抗を得やすくするため、ほどけるような機能も別に考え出されるかもしれない。