軌道エレベーターは史上初となる人類共通の象徴物
軌道エレベーターは⋯あたかも、単に丈夫なロープで結ばれただけの、簡素でローテクノロジーな代物に思えて来ることだろう。しかし、実際に設計構想されている軌道エレベーターは、もっと複雑な作りをしている。工法ももっと複雑だ。前回の補足ではないが⋯静止軌道上のプラットホームから、地上に向けてロープを継ぎ足して伸ばして行く感じになるが⋯気づいている人もいると思うが、いくらカーボンナノチューブが軽いものとは言え、作業が進むに連れて重心がどんどん地球側に下がってしまい落下、一気に全倒壊してしまう恐れが出て来る。なので、プラットホームから地球の外側、宇宙空間側に向けても、同様の作業を行わねばならない。そんな感じで、最終的に10万キロ近くの長さにも及ぶものが完成する。地球一周分の距離を遥かに超える長さとなる。
軌道エレベーターの利用目的についてもう少し詳しく語ろう。ガンダム00の世界でも描かれている通り、宇宙太陽光発電を真っ先に思いつく人が多いことだろう。天候に左右されることのない理想的な発電が叶う。しかし、これよりも大きな恩恵が人類にもたらされることだろう。エレベータに乗り⋯まぁ、宇宙に到着するまで数時間はかかるが、気軽に無重力空間に行けるようになるのは、全科学者の悲願と言っても過言ではない。現状における科学技術は、重力のある地上環境下での実験で進展して来た。重力と言う制約がなくなることで、新しい発見や発明が多く見込めるようになる。無重力環境下では物質が均等に交じり合うので、地上では絶対に作り出すことのできない物質の発見、探索の作業が効率的にできるようになり、科学がより加速度的に進歩して行くことになるだろう。
次に、これは当然の話であるが⋯軌道エレベーターは、地上からは固定して静止しているように見えるが、地球の自転とともに動いていることにもなる。高い位置ほど強い遠心力が作用する。つまり、少ない労力で容易に第二宇宙速度が得られる。月や他の惑星へ宇宙船が送り放題になると言うのはこれである。軌道エレベーターの最上部に宇宙港・宇宙ドックでも作り、そこで地上から運び込まれて来た材料や部品を使い、宇宙船を組み立て射出すれば良いのだ。軌道エレベーターの公転周期に合わせてタイミング良く投入すれば、宇宙のお望みの場所へ送り出すことができる。従来のロケット運搬方式のように莫大な燃料は必要としない。いささか誇張し過ぎた表現となるが⋯従来方式の宇宙開発と比較すると、限りなくただ同然に近いくらいの低予算で実現できる。
エースコンバット7のエイブリル・ミードも指摘していた通り、巨大な電波塔も兼ねられる。まったくではないが⋯通信衛星の大半もお役御免となる。余談であるが⋯電波望遠鏡による地球外文明の探索には懐疑的であるが、もしも、人工的な電波を捉えることができたなら、異星人のこうした巨大建造物から発せられる電波になるだろう。量子テクノロジーや反重力装置を開発するまでに至ってはいないが⋯そこそこ高度に発展した文明なら、軌道エレベーターを建造しているだろう。人や物の運搬を気軽に行える利点は表面的なもので、多くの人が宇宙から地球を俯瞰する体験を通じて、人類は精神的にも大きく変容して行くことになるだろう。実際、宇宙飛行士の大半が⋯どういう訳か、宇宙から帰還後、精神的に何か大きく変わってしまう事例は多く見受けられる。
軌道エレベーターが完成することで、人類の意識が大きく変わるのは間違いない。そして、その契機となるものは全力で守られる。やや精神論的に思われるかもしれないが、人種や地域に関係なく⋯すべての人が共有できる史上初の象徴物、希望になる。誰も破壊しようと思わないし、傷一つ付けることすら憚れることになるだろう。何よりも、軌道エレベーターの存在感が、戦争やテロを急減させる効果を果すだろう。人為的に危害を加えられるような心配はないと思う。神の意思だ!!壊してやる!!とか言う狂信的なアホが一人くらい出て来るとは思うが⋯警備員にボコボコにされて終了。では、最後に事故や自然災害等による倒壊のリスクはないのか?の不安が残る。その心配はいらないだろう。飛行機よりもさらに安全な公共交通インフラになると見る。まぁ、次回に続く⋯