もはや空想の産物でなくなりつつある宇宙軌道エレベーター

投稿日 2023.05.27 更新日 2023.05.27
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前回の話の続きである。スペースコロニーは理系人の心をくすぐるだけの「無用の長物」である。このような巨大建造物は必要とされないだろう。大きいことは良いことだとか、大は小を兼ねると言った考えは、欲深く罪深い⋯物質的な価値観に心を囚われた者の次元の低い発想である。成熟した未来文明社会では、無駄に大きいものはダサくてカッコ悪いものと考える風潮になっていることだろう。そもそも、科学技術の進歩はダウンサイジング化への挑戦の歴史でもある。何事もコンパクトでスマートな方が良いに決まってるし、そうなるのが必然であることを歴史が証明している。一方で、同じ巨大建造物となる軌道エレベーターは例外となる。多くの目的や意義の見出せる大変実用性の高いインフラとなるので、将来、間違いなく建設されるだろうと見ている。

まず、軌道エレベーターがどういったものか説明しておこう。ガンダムやエースコンバットの世界ではおなじみのものとなっているが⋯知らない人が意外と多い。かんたんに説明してしまうと、地上と宇宙を一本の長大なロープで結ぶ塔のようなものと言ったところだろう。ジャックと豆の木にみるようなものだ。ただし、一本のロープと言っても、実際には何本のロープも束ねたり重ねた感じのものになる。また、ロープと言っても縄でできている訳ではない。大変長大なものになる上、宇宙と言う過酷な環境に耐えられるものでなくてはならない。明石大橋で使われているような鋼鉄製のワイヤーロープでも耐えられない。しかし、近年になり十分な強度を持つ素材(カーボンナノチューブ)が発見され、軌道エレベーターはもはや空想の産物ではなくなった。

次に、軌道エレベーターの構造について詳しく説明する。ロープは軌道エレベーター全体を支えるための構造材に過ぎない。それに沿うよう様々な設備が付与される。軌道エレベーターと言う名の通り、軌条のようなものが設置され、地上と宇宙を行き来できるようになるだろう。リニアモーター方式の昇降機が採用されるだろう。これで地上から宇宙空間へ人や物が運び放題となる。従来のロケット運搬方式と比べ効率が良くローコストとなる。軌道エレベーターの宇宙空間側の先端部分には、遠心力でロープ全体を直線状に維持する目的から、重力バランスを兼ねた宇宙ステーションも建設されるだろう。そこで様々な科学実験が存分に行え、さらに、そこを起点に月や他の惑星に向け宇宙船が送れ、宇宙資源の収集も叶う。軌道エレベーターが完成すると何でもやりたい放題となるのだ。

ただし、以上の夢物語は一度建設してしまえばの話である。軌道エレベーターの総工費は一兆円前後になるものと言われている。その内訳の大半は、建設資材の運搬を目的としたロケットの打ち上げになるだろう。起動エレベーターの建設方法自体は単純で、まずは、上空の静止軌道上に作業プラットホームを作り、そこから地上に向かってロープを下ろして行く感じになる。しかし、ロープを地上に結合させるまでの間は、建設のために従来のロケット運搬方式に頼らざるを得ない。それは幾度となく繰り返し行われるだろう⋯とまぁ、そんな悲観論が大前提として立ちはだかる。しかし、国際共同プロジェクトになるだろうから、各国の負担はそれほどでもなくなると思う。あとはカーボンナノチューブのロープを低コストで大量生産する方法が確立されるのを待つだけだ。

カーボンナノチューブはゴムのように弾力があり、アルミよりも遥かに軽く、鋼鉄ワイヤーの20倍程度の強さがある。その用途は構造材に限られず、機能性材料としても有用であり、現状においては数百億円程度の市場規模であるが、半導体製造分野などを中心に、すでに一部の技術で実用化されている。我々が生きている間は無理かもしれないが⋯そう遠くない未来、軌道エレベーターの建設が着手されていることだろう。まぁ、課題も多い。宇宙ゴミだ。これを撤去する技術の開発も急がれる。すでに宇宙ビジネスの一環で始めようと考えている金満家がいるようだ。この点に関しても希望を持って良いだろう。あと、ガンダム00でも描かれていた通り、テロによる破壊、倒壊のリスクも懸念されるが⋯その心配もないだろう。その根拠については次回、触れてみる。