オカルト小説「タルパ戦争」すべてのはじまり

投稿日 2023.08.24 更新日 2023.08.25
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都内の大学生らを中心に、戦後オカルト史上最悪の事件が巻き起こる⋯庶民派の凸都大学や法経大学に対して、楽京大学は富裕層の子弟が多く、エリート意識の強い学風として知られていた。同大理学部の学生であった出井も、室町時代から続く由緒ある武家の家系で、あの喜連川藩とも所縁が深かった家柄の子弟であった。自宅は都内の高級住宅街にあり敷地面積は500坪にも及ぶ。出井は毎日そこから大学へ通学していた。その自宅の敷地内には大きな倉も構えられており、一人で静かになれ心を落ち着かせられる唯一の場所でもあったことから、様々な呪術を試すなどオカルト研究の場に利用していた。凸都大学の木口に持ちかけた思念伝達の件も⋯この場所から行う。しかし、倉の中には先祖代々から伝わる妖刀「似子似子丸」が厳重に封印、保管されていたのだ。

一本の妖刀に封印されていた存在

戦国時代、多くの人の生血を吸ったと語り継がれていた似子似子丸⋯木口の力はあまりにも強過ぎたため、存在しないはずのタルパの代わりに似子似子丸に感化してしまった。木口は似子似子丸に宿っていた主を、出井の提案して来たタルパと信じ込んでしまい⋯自らの元に招き寄せてしまう。そして、木口は筆舌しがたい霊障に襲われることとなる。浮島の力により引き出された木口の霊能力は絶大であったが、その制御はおぼつかない状態であった。このため、浮島から慣れるまでの間は、むやみに使用しないよう厳重に注意を受けていた⋯しかし、夏休みに入り浮島は実家のある京都へ帰省、木口も自宅で退屈な日々を過ごすこととなる。油断から心の隙を突かれるよう、浮島に相談することなく出井の提案に乗ってしまう。木口からのメール返信がないことに不安を覚える浮島⋯

主人公に襲いかかる妖刀の呪い

木口の自宅は都心から少し離れた郊外に位置していた。木口の父親は商社マンで現在は母親と一緒に海外へ赴任中であった。下に中学生の妹が一人いたが、当初、両親が海外にいる間は祖父母宅へ預けられる予定であったが⋯海外生活に強い憧れを抱いていたため、両親と共に渡航することとなる。このため、5LDKもの広さがあった自宅は木口一人だけの生活の場となる。バイトもせずオカルト研究会以外に然したる交流、活動をしていなかった木口は、霊障により身動きが自由に取れなくなり、外界から隔絶され孤立することとなる。霊障の症状は深刻で、まるで自分の体にかかる重力が数倍もの力に感じられ、歩くことすらままならない状態に陥る。意識も半濁状態となり、現実にいながら幻覚の中を彷徨っているような感覚にも襲われた。幻覚の中にあの似子似子丸の主の姿が映る。

そして、タルパ戦争へ⋯

廊下を這うように移動して自室に辿り着くと、パソコンを立ち上げ出井への連絡を試みる。しかし、返信は一切なかった。一方、出井は木口からの連絡に気づきながらも様子見に徹することにした。そして、冗談半分で巨大掲示板「たらばがに」のオカルト板に「木口のタルパが暴走」と投稿してしまう。それを見た浮島は強い不安に駆られ木口に電話をする。木口は浮島からの着信に気づき、重い身体に逆らうよう必死に携帯電話を取った。浮島は電話が繫がると同時に木口の身に起きた状況を瞬時に悟った。そして、あの「タルパ戦争」へと発展して行くこととなる。浮島一人でも対処は可能であったが⋯浮島は凸都大学オカルト研究会のメンバーやネット上で知り合ったオカルト研究家、タルパ愛好家らに呼びかけ合同ダイブを提案する。そして、今ここに木口救出作戦が発動する。

合同ダイブを提案した理由と目的

浮島は出井に対して激しい憤りを覚えていた。合同ダイブを提案した理由も、出井のような人物に対する警告と、教訓として関係者伝えたかった⋯そんな願いからであった。合同ダイブは音声通信サービスSkypeを利用する形で行われた。しかし、そんな浮島の思いとは裏腹に、出井はほくそ笑むように一連の流れを鑑賞していた。程なく、浮島は木口に取り憑いた似子似子丸の怨霊を払うことに成功し、木口は元の状態に戻り問題は解決された。しかし⋯それに納得できなかった出井が真実を暴露する。そもそもタルパは存在しなかった⋯日頃から浮島の共有ダイブに疑問を感じ試してみることにした⋯一転、木口と浮島は窮地に陥り、タルパ暴走の話は木口の妄想、浮島はインチキ霊能者と激しい批判を集めることとなる。しかし、浮島は最初から出井の企みを見抜いていたのだ。