オカルト小説「タルパ戦争」終焉の宴

投稿日 2023.08.25 更新日 2023.08.26
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浮島は最初から出井の企みを見抜いていた⋯そればかりか、木口の暴走したとされたタルパもタルパではなく、出井側の血筋に由来する何らかの霊体であることも見抜いていたのだ。このため、木口から取り払った怨霊は、後に完全に静め成仏させるつもりで、京都の実家内で手近にあった別のものへ一時的に封印していたのだ。怨みの念があまりにも強過ぎたため、ダイブを通じた即興での浄化は難しく覚え、偶然、目についた信楽焼の壺に定着させたのだ。壺の中から怨嗟の声が絶えることなく響き渡る⋯その一方、出井はこの事実に未だ気づいておらず、ネット上で攻勢を強める態度に出て、木口と浮島らを批判し続けた。そして、法経大学の更梨が加勢することで、状況はさらにヒートアップして行った。浮島はこれに一切反論せず、木口にもそのように強く厳命した。

疑惑

一体、これはどういうことか?関係者の間から、木口と浮島に対する疑問の声が沸き上がり続ける。存在しないはずの偽物のタルパを見抜けなった木口と浮島らに対する批判の声は⋯夏休みであったこともあり、日に日に増して行った。それでも木口と浮島は沈黙を貫いた。巨大掲示板「たらばがに」のオカルト板は、出井と更梨の独壇場と化した。特に更梨は自身が背負わされた宿命と気持ちを重ね合わせるが如く、木口と浮島に対する激しい批判の書き込みをし続けた。当初は感情的な更梨に同調する者は少なかったが⋯次第に支持の声を集め始め、今回の出来事はこう命名された⋯タルパ戦争。そして、いつしか、更梨はタルパ戦争の第一人者となり、彼の分析内容がさも真実であるかのように語られ始めた。しかし、更梨の霊能力も確かなもので、この後、更梨自身も真実に直面する。

関係者に襲いかかる呪い

時が経つにつれ、更梨は出井のオカルト研究、霊能力にも強い違和感を覚え始めた。更梨は自身が信頼する透視能力に長けた別の霊能者にコンタクト⋯念のため、今回の一件をすべからく霊視するよう依頼を出した。そして、思わぬ回答に更梨は困惑、動揺する。木口のタルパは本当に存在する!!いや、木口のタルパはタルパではない⋯戦後時代に由来する強力な怨霊⋯しかし、時すでに遅し。更梨がその事実を確認すべく出井に連絡を取ろうとするも、返信や反応が一切ない⋯数日後、楽京大学の最寄り駅で、出井がホームから誤って転落して電車にひかれ亡くなっていたことが判明した。そう言えば⋯掲示板上での書き込み頻度も急速に低下している⋯不安になり、連絡先を知る旧知のコテハンに連絡を取るも⋯本人ではなく家族からの訃報を伝える代理の返信が送られて来た。

闇に葬り去られた真実

相変わらず、浮島と木口は沈黙を貫き続けていた。人の噂も七十五日⋯結果、巨大掲示板「たらばがに」のオカルト板で、タルパ戦争について話題に触れる者はいなくなった。いや、主だった関係者はすでにこの世に⋯数カ月後、浮島は怨霊を定着させた壺を祀り供養して成仏させた。凸都大学オカルト研究会も解散となり、木口にはこれまでの件は一切忘れるよう再度厳命した。更梨自身も真実を闇に葬り去ることに決めた。タルパ戦争終結後、最寄りの大社へ赴き、お祓いを受けることにした。更梨はこれまでの分析内容の最後に、次のように付け加え、事件が沈静化した数年後、最終報告として自身のブログ上に掲載した。木口のタルパはどういう訳か存在している⋯信頼できる者に霊視してもらった結果、どうやら、宇宙意思に由来する思念体が彼に宿っていたようだと。

それぞれの未来

凸都大学オカルト研究会も解散となった。浮島や木口を信じて付き従って来たメンバーたちに惜しまれつつも、最後は盛大な飲み会を行い活動を永久停止することに決めた。メンバーの中からは、法経大学の更梨に対して怒りの声すら上げる者もいたが⋯浮島は笑顔でこう皆に諫めるよう伝えた。僕たちの心の中では⋯たしかにタルパ戦争はあったのさ。それでいいじゃないか⋯その後、浮島は幹部候補生として陸上自衛隊に入隊。木口は地元の区役所の採用試験に合格、念願の公務員になる。その一方、風の噂では⋯あの更梨は警察官になったらしいとのことだ。ある日の休日、木口は大学時代のオカルト研究会の仲間からの知らせにより、更梨のブログに掲載されたタルパ戦争最終報告を目にする。ブログコメント欄で両者シニカルなやり取りを行った末、互いのため永久断絶を誓った。