謎のスピリチュアル小説・ゴン管ぎつねの新しい運命
僕はあの潜水艦が憎い――
公衆の面前でクリスマスツリーとなる恥辱は⋯⋯生涯、彼の胸に刻まれることとなる。しかし、存外と悪い気分でもなくなって来た。
見知らぬ親子から謎の占い師風の美女まで、いろいろな人から気にかけて貰えたことに、なんだか少しだけうれしくなっていた。思えば⋯⋯彼は現在の主である文磨に召喚されるまでの間、暗闇の中をずっと⋯ある想いのあった人間と、二人切りで過ごして来た。
それは江戸時代のとある庄屋の娘、玉との恋から始まった⋯⋯
彼は元々、その村の神社に祀られていた神霊だった。霊感に長け、不可視の存在が見えた玉と至福な時を過ごしていた。常に一緒にいて欲しいとの玉の強い願いから、用意された竹筒の中に住み着くこととなる。そして、玉はその竹筒を片時も手放すことはなかった。
楽しかった⋯⋯
しかし、留守中の神社に「山豆威」なる貧乏神が勝手に住み着き、その村はたちまち没落して行く。田畑の生育は極端に悪くなり、川の水量が激減し始めたのだ。そして、密かに人身御供の話が持ち上がり始める。
村の中で一番可愛い娘⋯⋯玉に視線が向けられる。
責任感が強く信仰心の厚かった庄屋は、涙を堪えながら⋯⋯自分の娘を差し出すことを決意した。
「僕も一緒だから大丈夫だよ!」
そうして⋯⋯
玉はゴンの入った竹筒を強く握り閉めながら⋯⋯深く暗い井戸の中へ降ろされ埋められた。あれから数百年経過しただろうか、ある日突然、ゴンの頭上から光が差し込んで来た。同時に玉の最後の言葉を聞く。
「新しいご主人様の元へお行き、私はもう大丈夫だから」
「えっ、やだよ!僕は玉ちゃんとずっと一緒にいるよぉ」
「これは私からの最後の命令よ!」
号泣するゴン⋯⋯
玉の悲しい逸話は現代日本まで語り継がれ⋯
どこでどう言う風に話が歪められたのか、通称「弾除け神社」の祭神として祀られ、多くの人々から「タマタマ様」と呼ばれ、戦争の女神として崇められていたのだ。ちなみに、山豆威なる貧乏神は、明治時代、とある霊媒師により駆除されていた。まぁ、その話は別の機会にあらためてする。
話を元に戻す⋯⋯
次の瞬間、ゴンは光の中でぐんぐん吸い込まれ、これまでに見たことのない光景の広がる世界に辿り着いた。
江戸時代から現代日本まで、玉と一緒に時代の変遷、進歩は見て来たが⋯現代日本ともまた違う感じのものでいっぱいに溢れていた。
気がつくと、目の前に一人の青年が立っていた。
手に呪術書のようなものを持ち、周りをよく見ると、自分が魔法陣のようなものの中にいる様子だった。
「おっと、こりゃまた⋯⋯妙なヤツが召喚されて来たな」
倉臼文磨である。
「なんて呼んでいいかな?」
「⋯⋯」
「名前ないのか?」
「あんた、誰だよ?玉ちゃんの元に返せ!」
「なるほど⋯⋯何か訳ありのようだな。はぁ、思ってたのと違うし⋯⋯」
「じゃ、元に戻せよ!」
「でも、ま、いっか!これから宜しく頼むぞ。相棒!」
こうしてゴンの新しい運命が始まった。
◇ ◇ ◇
次回、なんかの秘密を暴露。